『ルー=ガルー 忌避すべき狼』京極夏彦

ルー=ガルー (トクマ・ノベルズ)

なんともはや難しい作品。

内容は到って平易。所謂90年代後半におけるオタク文化の代表的要素である「キャラモノ」と「内面モノ」を適当に詰め込んで消費されるミステリ小説を書いてみました、とでもいった感じ。
しかし、これを書いてるのが京極夏彦だと思うと、実に変な気分である。

確かに京極夏彦の小説はキャラクター小説であるという括られ方をすることもあるし、元々エンタテイメント指向の強い人でもある。
しかし、さすがにこの作品はちょっと無理をしすぎてる気がした。

当時はまだまだ売り出し中の作家だったし、仕事を頼まれると嫌とは言えない(で、後で愚痴る)性格らしいので、こういう企画モノの仕事を(当人も多少は興味があったんだろうけど)つい受けてしまったんだろうけど、これはハッキリ言って失敗作に分類してもいいんじゃなかろうか。

いわゆる「オタク迎合的」なキャラ萌え要素は、作者自身がそっち系にあまり興味がないのか、実に定型的で全く目新しさを感じない(かつ劇中要素として有効に利用されてるとは言いがたい)し、「少年少女の内面旅行」的な部分も、ロジックを大切にして曖昧さを許さない作風によって、まるで「とってつけた」かのような印象を拭いがたい。
最後の歩未の告白を聞いて、「は?」と思った人は多いんじゃないだろうか。いや、彼女が言わんとすること、それによって作者が描きたかったことはわかる気もするんだけど。

作品の大テーマは「『ヤクザを殺して平気なの?』」「オトナとコドモの関係」の二つ。だった…んだろうか。
前者は実に京極夏彦的に書かれていてそれなりに痛快ではあったが、後者は…
うーん、もうちょっとオトナの活躍を見たかったなぁ(笑)あの流れでの歩未のあの結論はやはり文面通りには受け入れがたい。

まぁ、「過去の文化の語り手」である京極夏彦が、昔は近未来モノを書いたこともある、というレアリティを語ることができるだけでも、読んだ価値があったということにしておこうか。

で、続編(と噂されてる)・「インクブス×スクブス」って本当に出るのかね?