『エピタフ』あせごのまん

エピタフ (角川ホラー文庫)

短編3本の作品集。これまたE中さん提供。

「墓碑銘」

作者が長年書きたいと暖め続けていたネタだそうな。
確かに、妖怪やら民俗学やらを絡めたホラー物語のプロットとしては優れているかもしれない。
(ちょっと型にはまりすぎてる気もするが、この手の話ではそれは別に良いかとも思う)

しかし、物語のボリュームと尺とが合っていないのか、必要な描写がいくつも欠落しているような気がする。何というか、微妙に物足りない気分が後に残った。

ニホンザルの手」

これまた物語の筋・最後のオチ・電波系な一人称スタイルという個々の要素は優れているように思えるのだが、やはりどれもほんの少しずつだけ「面白い」という評点に届いてないような気がしてしまう。
なんとも消化不良な気分。

「憑」

これは怖い。

「社会ホラー」とでも言うのか、「あっち側」のある意味ピュアな美しさを感じさせる怖さじゃなくて、「こっち側」の生々しさを感じさせる恐怖。
大阪という土地(私は微妙に大阪ではないけど)に暮らす者通じ合う(ひょっとすると全国どこでもこんなもんなのかもしれないが、私には分からない)地域臭が余計に生臭さを出しているのだろうか。

多分作者が本来書きたいのは「墓碑銘」みたいなお話なんだろうけど、短編スタイルだとやはり難しいのかなぁ、と逆説的に感じさせる作品だった。