『姑獲鳥の夏』

試写会以降、ネットでの評判があまり芳しくなかったため、正直見に行こうかどうか迷っていた。
偶然(笑)京都でソマミチ君とまほー屋さんに会う事がなければ、少なくとも上映期間終了間際まで見に行く事がなかったんじゃないだろうか。『続巷説』をちょうど読了して『嗤う伊右衛門』を読み始めていた事も含めて、まぁこれも運命だったのかもしれない。
まぁ、敬愛するT岡さんがかつて仰った「俺はデビルマンを見に行った事を後悔はしていない。何故なら、見に行った事によって俺はデビルマンを心ゆくまでこき下ろす権利を得たからだ」という言葉もちょっとは影響があったかもしれない。ということにしておこう。

以下、思い切りネタバレ有りでこき下ろすことにする。

キャスティング・キャラメイク

まほー屋さんの「原田知世に14歳は無理がありすぎる」という言葉を借りるまでもなく、ファンの多くから疑問の声が呈されていた今回の配役。しかし、これが蓋を開けてみると主要キャスト陣が皆思いのほか癖の強いキャラクターを好演していて、あまり違和感なく(原作に対して、ではなく映画全体の雰囲気に対して、という部分が強いけど)受け入れる事ができた。

京極堂=堤慎一は、長口上の際に妙に棒読みになる(そりゃあれだけ長くて抽象的なセリフだもんなぁ…無理もないわ)のと、憑き物落しから真相の解説に到る終盤のシーンで妙にリラックスした姿勢を見せることが多かった(こりゃ演出家の領分だけどね)のとを除けば「親類縁者死に絶えでもしたかのような不機嫌な顔」というあたりを結構いい感じに再現していたと思う。

関口=永瀬正敏は、「猿顔じゃない!」というツッコミがかなり入ったんじゃないかと思うが、考えてみれば涼子と関口の愛の物語(笑)である以上、原田知世との釣り合いをとっておかねば、女性客に納得していただく事はできそうもない(電車男だって二枚目俳優ばっかりだもんなぁ…)以上、ギリギリのラインでハンサムと猿顔を両立させた苦心のキャスティングだったような気がする。
どうでもいいが、オープニングで執筆中に文机に寄りかかって居眠りしている関口君を見て「こんな前向きな寝方をするのは関口君じゃないだろう」と突っ込みを入れたのは私だけだろうか。机を見るのも嫌になってそっぽ向きながら頬に畳の跡をつけて汗だくで寝ている姿を是非再現して欲しかった。

久遠寺姉妹=原田知世は、まぁこんなもんかなぁ…という妥協ライン。違和感は全く無いが、逆に強いインパクトがあるわけでもなく、周囲に埋没してる感もなくはない。
何も少女時代まで全部やらせる必要はなかろうに、というまほー屋さんの意見は確かにそのとおりなのだが、正直どうでもいい気もする。どうでもいい気になってしまうあたりが、既に失敗なのかもしれない。

榎木津=阿倍寛は、野趣溢れるヒゲ面(笑)を筆頭に、「榎木津」としては違和感ありまくりなのだが、阿倍寛独特の何ともいえない存在感が持つ妙な説得力が不思議とその違和感を吸収している感じだった。私が阿倍寛ファンだから、という補正を差し引きしても、まぁこれは結構成功した配役なんじゃなかろうか。元々『姑獲鳥』の榎木津はシリーズの後の作品に登場する榎木津とは別人に近いわけだし。
それにしても、榎木津の登場シーンだけ唐突に柱時計の振り子の音がSEとしてバックに流れて、シーンの最後に「ポーン」という時計の鳴る音で〆るのは、どうなんだ(笑)いや、面白かったけど。

木場=宮迫博之は、木場自身が脇役であることも含めて、まぁあんなもんかなぁ、と。ただ、榎木津と並んだ時の身長差がいくらなんでもこれは…と思わなくもなかったが(笑)
『魍魎』を映画化するとしたら、宮迫ではちょっと厳しいだろうなぁ。

このように主要キャストが意外なハマリ方を見せた一方で、脇役は当たり外れが非常に大きかった。

敦子=田中麗奈は、前評判がかなりよかったので期待したのだが、脚本が最悪(敦子本来の持ち味である冷静さや論理性よりも、勝気さやアクティブさを全面に押し出しすぎ)だったこともあって、かなり幻滅した。これで田中麗奈が可愛くなかったら、暴動モノであったことだろう。
…そういう意味では配役としては成功してるのか!?

牧朗=恵俊彰。これはかなりハマっていた。イメージにピッタリすぎて、却って笑える。 対照的に、内藤=松尾スズキは原作のイメージとは正反対に近い感じがするのだが、変更されてる劇中での役割にぴったりマッチしていて、かなり良いキャラになっていた。尤も、その変更脚本では脇役度が原作よりも上昇してるので、割を食ってるという見方もできなくはないが。

個人的に一番のサプライズは、和寅=荒川良々だったと思う。
正直、腰が抜けた。びっくりだ。これが江戸っ子なのか!?

青木・鳥口あたりに文句がある人も多かったようだが、これはあまりにもチョイ役すぎて、気にはならなかった。それより、里村君があまりに変態さんになってたのが面白かったがヒドイなぁ、と(笑)

久遠寺菊乃=いしだあゆみ。まさに「怪演」。一人で中盤以降の雰囲気作りの6割以上を支えていたように思う。ただ、雰囲気出すぎていて、あの説明不足の憑き物落しでは憑き物が落ちてないと思うのだけれど(笑)
久遠寺嘉親=すまけい。これも好演だった。

関口雪絵=篠原涼子。画面に出てきた時、思わず「うわああああ」のAAが脳内をグルグル巡った(笑)
雪絵さんは「美しいがいつも気疲れしていてどこか幸薄そう」な薄幸系のイメージだったのに…これじゃ発酵系じゃないか…。OPで赤ん坊抱いて嬉しそうにしてるシーンは『川赤子』を読んでいると「ええええ!?」という光景だったが、まぁ全体的にそういうキャラ造形なんだと思えばしょうがないか。考えてみれば当の関口君があれでは、そんなに幸薄くもないんだもんなぁ…

中禅寺千鶴子=清水美砂。登場は一瞬。そして、その一瞬何かが喉元まで出かかったが、まぁすぐにシーンが終わってしまったので何とか飲み下せた。というより、直後に雪絵が出てきたほうのダメージで…(笑)

最後に、映画オリジナルキャラである水木しげる京極夏彦
…まぁ、多くは語るまい(笑)あの帽子は顔の形がストレートに出すぎて危険でごわす。

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